高浪 雅洋 (TAKANAMI, Masahiro)
学校教育における探究学習の教育的意義と学校図書館を活用したその展開
近年、探究型の学習は注目を浴びていますが、習得型の学習に比して授業の場である教室にとどまらない、さまざまな学習基盤が探究学習の成功に関与してきていると言えます。中でも図書館は極めて重要な役割を担うものですが、実際には、図書館を上手く活用した探究学習を展開することができるかどうかは、各学校や教員に依存しており、共通の参照枠が存在しないのが現状です。こうした背景を踏まえ、探究学習の在り方を理論的に整理するとともに、先進的な実践事例におけるフィールドワークを通して、修士課程では特に高等学校における探究学習の概念とその教育的意義について考察してきました。今後は、小学校・中学校に研究対象を拡げるとともに、探究学習における学校図書館の活用についてさらに深く検討していきたいと考えています。
情報リテラシー教育のカリキュラム統合モデルの検討
現在、高等教育を対象とした情報リテラシー教育をカリキュラムの中に統合するためのモデルを理論的に検討している。大学図書館の機能の拡張に伴って、情報リテラシー教育は中核を取り組みになっており、カリキュラムへの統合は急務となっている。ところが高等教育のカリキュラムの捉え方については、その複雑さから統一見解がないと言っても良い。そして情報リテラシーについては、各種フレームワークなどでその到達目標ばかりが強調されるが、実際のリテラシー獲得の過程の複雑さも詳らかにしていく必要があると考える。現在の研究は、その両者の接点を探ることにある。 この研究室で取り組んだ修士論文では、探索的に人文社会系と学際的な領域の研究者へのインタビューを実施し、学界の特性、彼らの研究指導の状況などを明らかにすることで、領域・カリキュラムの根底にある実態を、情報リテラシー教育との関連で明らかにした。
機械翻訳を活用した多言語文書展開を支援する枠組みとシステム環境の研究
翻訳は文法規則と語彙の組み合わせだけからなるわけではなく、では他に何が必要なのか、どんなことを考慮しなければいけないのか、と考えたとき、文脈やら状況やらを把握することが大事である、というのはよく言われたり書かれたりしますが、そういった文脈やら状況やらという言葉に飛びついてしまう前に、一歩踏みとどまって、文字テキストの延長線上にありながらも物体として社会の中で機能を持つような「文書」というユニットに着目して、そこで観察される言語表現の振れ幅を記述しながら、さらに今後観察されうる表現範囲を予測しながら、翻訳あるいは執筆という行為を捉えなおしてみたいという興味関心のもとで、実際にやっていることは、機械翻訳を活用して自治体ウェブサイトの文書を多言語に展開するためのシステム環境のデザインと実装です。詳しくは、こちらをご覧ください。
女性の図書館利用と婦人閲覧室:戦前期日本における公共図書館を中心に
戦前期の公共図書館では、男性が利用する「普通閲覧室」と「婦人閲覧室」が設けられ、男女で本を読む空間が区別されていました。このような環境下で当時図書館を利用する女性は限られていましたが、婦人閲覧室を利用する女性は確実に存在していました。しかし、戦前における女性の図書館利用の実態について研究されたものはほとんどなく、当時の女性がどのような目的で図書館を訪れ、実際にどういった資料を手にし、婦人閲覧室という狭い空間でいかなる時間を過ごしたのかということについては未だ明らかにされていません。そこで本研究では、戦前期(大正~昭和初期)の公共図書館における婦人閲覧室の構造と図書館を利用していた女性の実態を雑誌記事・新聞記事・統計資料から調査・分析することで、婦人閲覧室の設置によって女性の図書館利用にどのような影響をもたらしたかを明らかにしたいと考えています。
台湾の小学校における読書教育について-1950年代から2010年代にかけて
近年、社会全体の読書離れに伴い、出版や本に関する産業が不振になるにもかかわらず、児童書の売り上げだけが伸びっている。
このことは、こどもに対する様々な読書推進活動が盛んでいると考えられ、
これらの読書活動が確実に全員に届けているのが小学校の場である。
そして、小学校の読書教育は時代とともにどのように変化していくのに着目している。
小学校の読書教育へ影響を与える要素として、学習指導要領の改訂、国の読書推進政策や法律、
民間の読書活動の動き、児童書の出版事情と国際的な読書リテラシー試験などが挙げられている。
現在、各読書指導法または読書活動の実行と結果にとどまる研究が多く、長期的な視点があまりみられていない。
そこで、本研究では、日本の植民地時代が終わった1950年代から2010年代まで、
台湾の小学校における読書指導に関するの変化を明らかにし、その沿革をまとめる。
百科事典の概念を構成する属性を手がかりとしたWikipediaの分析
知識の記録、伝達は様々なメディアによって支えられてきました。 その中でも、印刷された図書は特権的なメディアであり続けてきたといえます。 近年新たに登場したコンピュータやインターネットという新たなメディアは図書の特権性を脅かす存在となっています。 しかし、図書の集合はこれまで知識の編成を担ってきたといえるが、コンピュータやインターネットといったメディアが属する電子の世界は同様の知識の編成を可能とするのでしょうか。 もちろん利便性、機能性の点で優れるコンピュータやインターネットは今後ますます発展、普及を遂げるでしょう。 しかし、その形態からして従来のメディアからかけ離れたものが、図書が長年かけて形成してきたような知識の編成を成し得ると言い切る前に少し慎重に検討する必要があります。 本質的に問うべき問題をこのように定めながら、修士課程ではその解決の第一歩として、現在一般に百科事典として受け入れられているWikipediaは、本当に百科事典であるといえるかについて、図書の形態の百科事典の概念を基準として分析を行いました。 結論としてWikipediaは利用に関する属性を除いては百科事典と属性を共にしているとはいえず、百科事典という概念の外延には位置していないといえます。
「前読書家」の読書を触発する図書推薦システムの開発
近年の高度情報化に伴い、スマートフォンをはじめとする個人用情報端末の利用時間が増大し、電子書籍の普及とともに本が携帯端末の内部で消費されつつある。 このことは、 将来世代にとって本と無意識に接触する機会が従来世代とは全く異なるものとなりうることを意味し、社会的にも学術的にも広く認識されている読書の教育学的意義を鑑みれば、情報ひいては教育格差に潜在的影響を及ぼすことが懸念される。 そこで、情報化の展開に即したかたちで、オンラインにおいて読書を触発できる環境を実装すること、特にあまり本を読まない状態から読む状態への移行を促す環境を想定した図書推薦システムの研究が重要となるとの着想に至った。 このとき、内容や関心に基づく手法や協調フィルタリングといった、積極的なユーザを前提としてきた従来の図書推薦システムとは異なり、受動的で情報行動が非積極的なユーザを対象に含めなければならない。 ところが我々はそもそも、人はなぜ読書するようになるか、その「読書を触発する契機」をまだ知らないのである。
そこで本研究では、読書意欲はあっても本を読む習慣・本を積極的に求める習慣を持つに至っていない「前読書家」を対象とし、知人・友人による図書への言及が読書行動を誘発しうるとの予備的検討に基づき、SNSの中でも気軽な会話がなされるTwitterを利用することで、近しい人との(近接性)日常的な会話(日常性)の中で、さりげなく(非強迫性)、楽しそうに(誘引性)言及される図書の情報を「前読書家」に通知する図書推薦システムとしてSerendyを実装する。
説明とは何か−「何故」という理由を「説明」する構成要素とその編成について−
言葉を論理的に構成するということとは何か、またそれを、背景の異なる他者とコミュニケーションをとるための技術として、公教育の中でどのように伝えていくことができるのか、に関心があります。
2008年から文部科学省が提唱している「言語活動の充実」をうけ、教育学分野の中では近年「説明力」の必要性が叫ばれてきました。また、「説明力」をつけるための授業実践も多く報告されています。しかし、そもそも説明とは一体何でしょうか。どんな構成要素を持ち、何から始め、何が果たされたら、説明とみなされるのでしょうか。説明力をつける授業実践、またその効果についての研究知見がある一方で、そうした議論を可能にするような、「説明とは何か」を問う研究は多くありません。
そこで現在は、一般に説明と認識されている、大学入試問題とその解答·解説を用い、構成要素とその編成の観察を通じて、そもそも「説明とは何か」を明らかにする研究を行っています。
高橋 恵美子 (TAKAHASHI, Emiko)
1950年代以降の学校司書の実践の歴史及び2014年学校図書館法改正(学校司書をはじめて明記した)に至る要因など
学校司書は、1950年代から法律に記載されている司書教諭より多く存在し、学校図書館の運営を実質的に支えていた。にもかかわらず司書教諭に比べ、実際に学校司書の果たしてきた役割や実践の蓄積に関する研究は、あまり見受けられない。学校司書の果たしてきた役割及び実践の歴史を明らかにする。
近年、文部科学省の調査研究協力者会議が学校司書を扱うようになり、2014年の学校図書館法改正では学校司書が法律に明記されることになった。文部省・文部科学省の学校司書に関する認識の変化を明らかにし、法改正に至る要因を分析する。
発達性ディスレクシアに特化した読みやすい和文書体の研究
文字情報のかたち、とりわけ視覚的なデザインが私たちの暮らす世界において果たす役割に関心を持っています。
現在主に取り組んでいるテーマは、「発達性ディスレクシアに特化した読みやすい和文書体の研究」です。この研究は、文字のデザインである書体が持つ「読みやすさ」に関する機能に着目したものです。最終的な目的は、発達性ディスレクシアという学習困難を持つ読者にとって読みやすい書体を作成することと、書体をある一定の範囲内で自身にとって読みやすい形に改変することができるカスタマイズシステムを開発することです。
その結果として、発達性ディスレクシアを持つ読者を含む多くの人々にとっての読みの困難が軽減されることが期待されます。また、発達性ディスレクシアの視覚的な症状の類型化など、神経心理学の基礎的研究にも貢献することが想定されます。
日本語ウェブ文書に対する日本語非母語者の読み理解のためのドキュメント・デザインに関する研究(Multilingual document design)
情報がテキストとして共有される際には目的と伝達メディアの特性によって内容と形式が編成される。そして、内容と形式がどのように構成されて表現されているかは読み手の読みプロセスに影響を与える。
本研究では、ウェブ・ドキュメントを主な対象として、日本語非母語話者の読み手が日常生活の中で日本語でウェブ文書(web document)を読むときに、文書のデザインが読みプロセスと内容の理解にいかなる影響を及ぼすのかに関して探索していく。現在には、実際に使われているウェブ文書(自治体の手続きに関するウェブ文書)を用いてドキュメント・デザインの観点から分析および分類をしつつ、読み手が与えられたタスクのためにこれらの文書をどのように読んで利用するかを明らかにするためにアイトラッキング(eye-tracking)及びユーザービリティ・テスティング(usability testing)の方法を使用する実証的な研究を行なっている。
次のステップでは、その結果に基づいて適切にデザインしたウェブ文書を作成し、再び実証的な研究を通して、ウェブ文書デザインと日本語非母語話者の読み理解の相関関係を明らかにしたいと考えている。