2018年度

2018年度になりました。

博士課程に朴恵さんと王一凡さんが入学しました(朴さんは研究生でした)。修士課程に渡邊晃一朗さんと姚依辰さんが入学しました。朴さん・王さん・渡邊さんは教育学研究科、姚さんは情報学環・学際情報学府の所属です。

4年間にわたり客員教授として研究教育にご尽力くださった吉田右子先生が2018年3月31日付で客員を退任しました。4月1日からは東洋大学の海野敏先生が客員教授となりました。また、Googleの賀沢秀人さんが本研究室情報学環の客員研究員となりました。

日本では、公文書改ざん問題で、行政の基盤が揺らいでいます。自由な社会・民主的な社会の必要条件の一つに、情報へのアクセスがあります。LessigのFree Cultureから、図書館と自由な社会に関連する部分を引用します。

私たちは、読んだと記憶しているものを、立ち戻って再び見ることができる状況を当然と思っている。・・・公共図書館で新聞を見ることができる。・・・いずれにせよ、図書館を使って、自由に/無料で、過去のものを思い起こすことができる。

歴史を記憶しないものはそれをくり返す、と言われる。これは正しくない。我々は誰もが歴史を忘却する。重要なのは、忘れたことを立ち戻って再発見する方法があるかどうかである。・・・図書館は、コンテンツを集めて維持することで,それを行う。・・・自由な社会はこの知識を前提とする。

メンバーの研究テーマをご覧になった方は、本研究室が「図書館情報学研究室」でありながら、図書館「そのもの」に関わる研究テーマが少ないと思われるかもしれません。

現在、日本では図書館は(最近の「アウトソーシング」により不幸な例外も出てきていますが)、概ね、自由な社会を支える基盤としてそれなりの位置付けを保っています。けれども、それぞれの社会の中で「図書館」と呼ばれている/呼ばれてきた組織が常に/すべてそのような位置付けを担ってきたか、というと必ずしもそうではありません。「図書館」が権威主義的に知識を囲い込む役割を担ってきた時代や地域がありました/す。

本研究室の研究テーマは、直接、現在の日本や様々な地域で「図書館」と言われている現実の組織に関わらないものも含め、いずれも、自由で民主的な社会の基盤となる、知識の記録に誰もがアクセスできることを可能にする環境と条件に関わるという共通点をもち、それらはすべて図書館の理念に関わっています。

公共図書館が、利用者を増やすためにオオクワガタとハタケシメジとユキワリの展示を始めて、それにばかり予算と人員を注ぎ込んだら、公共図書館という名前が付いていたとしても、それは図書館とはもう言えません。図書館と名の付いた組織が図書館であるためには、維持しまた展開しなくてはならない理念があります。

人類が、様々な苦しみをときに伴いながらも培ってきた、普遍的に共有すべき、自由と民主的な社会を支える知識と知見の最良の部分に関する記録を、保存し、すべての人に利用可能なかたちで編成し、また次の世代が引き継いでいけるようにすること。

月に到達するためには月を見上げるばかりでなく下を向いてロケットエンジンを作ることが必要です。近代の図書館が担ってきた理念を維持し、現実のものとし、広げていく作業は、多岐にわたります。

今年度も、どうぞよろしくお願いいたします。